ウイスキーに興味をもつとボトラーズというキーワードを聞くことがあるのではないでしょうか。
またバーにいくと見たこと無いラベルのウイスキーで圧倒されることもあると思います。
ボトラーズとはオフィシャル以外から販売している業者である、インデペンデントボトラー(独立瓶詰業者)を意味しています。
オフィシャルとボトラーズの違いを詳しく解説します。
目次
インデペンデントボトラー(独立瓶詰業者)とは?
ウイスキーの販売には製造元(蒸留所)が販売するオフィシャルボトルと、製造元から買い取り独自にブレンドや熟成させて販売するインデペンデントボトラーの2つから販売されている事があります。
例えば、日本では山崎や白州はサントリーが所有しており、販売もサントリーが行っています。
製造元から販売されているボトルがオフィシャルボトルとなります。
インデペンデントボトラー(ボトラーズ)は、蒸留所から独立した会社でウイスキーを買い付けて販売しています。
なぜインデペンデントボトラー(独立瓶詰業者)がいるのか
ボトラーズの存在は必然だった
インデペンデントボトラーはウイスキーブレントの歴史と深いつながりがあります。
1800年代初期の蒸留所が販売するウイスキーは品質に課題があり、シングルモルトとして販売しても売れ行きは悪く人気もありませんでした。
また大戦の影響もあり多くの蒸留所が経営難で、蒸留所は常に閉鎖の危機にありました。
蒸留所はすぐに現金化できるボトラーズの存在は大きく、Gordon&MacPhail(GM社)やアッシャーなどは蒸留所から樽ごと購入し自身の食料品店で販売していました。
品質の決め手はブレンド
アッシャーの父はグレンリベットと独占販売契約を結んでおり、1850年代になるとアンドリュー・アッシャーがウイスキーのブレンドを始めアッシャーズ・オールド・ヴァッテッド・グレンリベットを販売しています。
この時のブレンドはモルト原酒のみをブレンドする、シングルモルトやブレンデッドモルトが支流でした。
ブレンドによりウイスキーの品質が安定し、USHER’S GREEN STRIPE(アッシャーズ・グリーンストライプ)はスコットランドのみならず海外でも非常に人気のあるウイスキーとなりました。
ちなみにUSHER’S GREEN STRIPEは現在も販売されており稀にバーにあることがあります。
ボトラーズが急成長、参入が多くなる
1860年になるとモルトウイスキー以外のグレーンのブレンドが法改正により可能になり、ブレンデッドモルトなどで技術を積んでいたボトラーズは安定した品質で飲みやすいウイスキーを大量生産できるようになり、多くの人々に受け入れられるようになりました。
同時期にワインがフィロキセラ(ぶどうの木に寄生する害虫)により壊滅的となり、ウイスキーよりもワインを好んで飲まれていた上流階級がウイスキーを好んで飲むようになったことからウイスキー=密造酒というレッテルは消え去り本格的にウイスキーの産業が栄えることになります。
その結果、ウイスキーを作る蒸留所と、ブレンドやボトリングして販売するインデペンデントボトラーという2つの業態が誕生し成長しました。
ボトラーズのあり方が変わる
1990年頃からはシングルモルトブームが到来したことから、蒸留所がオフィシャルボトルとして販売することが多くなり、ボトラーズへの原酒提供を控えるようになりました。
そのためボトラーズは原酒を入手しづらくなり、厳しい制約のもとで買い付けすることになったと推察されます。
そこでボトラーズは原酒を安定して入手するため蒸留所を買収したり、閉鎖された蒸留所を再開させるなど、蒸留所としての機能も手に入れつつあります。
ボトラーズの特徴
シングルモルトブームであってもボトラーズにしかない特徴があります。
ほぼ全てのボトラーズが対象としているウイスキーはスコッチになります。
カスクストレングス、シングルカスクが多い
オフィシャルでは加水されアルコール度数が40%前後のボトルが殆どですが、ボトラーズでは加水されず60%近いウイスキーが大部分を占めています。
カスクストレングス:加水されてないないウイスキー。他の樽のウイスキーがブレンドされている。
シングルカスク:1つの樽から作られたウイスキー。基本的には加水されていない。樽の個性が強いためボトルよって味わいが異なり、出来の良い樽はオークションで高額で取引されることがある。
カスクストレングス・シングルカスク:加水されておらず、1つの樽からボトリングされたウイスキー。
加水されていないためアルコール度数は高いものの、味わいは非常に濃厚でウイスキーそのものの味わいを楽しむことができます。
ノンチルフィルタード、ノンカラーが多い
ウイスキーは製造過程で樽の雑味や澱(オリ)を取り除くため、冷却濾過する事があります。
澱には、旨味やフレーバーが含まれており、あえて澱を除去せずに販売しています。
ロックやハイボールなどでウイスキーを冷却した際に澱が発生する事がありますが人体に影響はありません。
また、着色(ノンカラー)されていないボトルが多い事も特徴です。
数は少ないですが、ノンチルフィルタード、ノンカラーのオフィシャルボトルもあります。
独自のブレンデッドウイスキーがある
ボトラーズのウイスキーには様々な蒸留所からブレンドされたウイスキーも販売されています。
好きな蒸留所同士のブレンデッドウイスキーを見つけるのはウイスキー愛好家としては非常に楽しい時間なのです。
超熟のウイスキーや独自の樽構成がある
オフィシャルから販売されていない、熟成年数のウイスキーがボトラーズから販売されています。
また買い付けた樽を他の樽で熟成させたり、ボトリング直前に追熟させたりすることもあり、オフィシャルにはないウイスキーが販売されています。
好みの樽構成や、生まれ年に樽詰めされたヴィンテージウイスキーを探すこともできます。
1981年にスペインの法改正でウイスキーの熟成に使っていたシェリー樽が入手できなくなったことから、1980〜1990年前後でシェリー樽の構成が変わっており、1980年より前のシェリー樽が好きな愛好家はボトラーズからヴィンテージウイスキーを探すことも多いです。
蒸留所のオフィシャルがない
ボトラーズがブレンドすることが多かったためシングルモルトとして販売されていないウイスキーもあります。
ベンロマック(GM社)、グレンアラヒー、アードモアなどはブレンド用のウイスキーとして販売されていたことが殆どでシングルモルトとして入手することが難しかったウイスキーです。
ボトラーズの始め方
ボトラーズはオフィシャルと違って丁寧なWebサイトやテイスティングの情報も少ないので最初は選びづらいと思います。
ボトラーズを始めやすいのは最初に好きなウイスキーを見つけておくことです。
好みのシングルモルトのボトラーズを探してみる
オフィシャルのウイスキーに飲み慣れたら、ボトラーズからリリースされているものを探してみましょう。
カスクストレングス、熟成年数、樽構成が異なり、同じラベルでもまったく異なる味わいのウイスキーを見つけることができるかもしれません。
キーモルトを探してみる
ブレンデッドウイスキーは数十種類以上のウイスキーがブレンドされています。
その中でもウイスキーの味わいを決定づけるキーモルトがあります。
キーモルトはオフィシャルでも販売されている事が多いのですが、ボトラーズでは樽構成が変わっていたり、熟成年数が変わっていたりすることが多いため、ブレンデッドウイスキーと違った味わいを楽しめると思います。
ヴィンテージを探してみる
好きなウイスキーはまだ分からない方は生まれ年や記念日のウイスキーを探してみましょう。
ボトラーズとしてはシグナトリーからコストパフォーマンスのよいヴィンテージウイスキーが多くリリースされています。
スコッチの場合は3年以上熟成させる必要があるため探す際は注意が必要です。
ボトラーズ一覧
ゴードン&マクファイル(Gordon&MacPhail)
1895年に食料品店として創業しました。その後ウイスキーの取り扱いを徐々に始め、現在はウイスキーのボトラーズとして運営されています。
代表的なシリーズはコニサーズ・チョイス(Connoisseurs Choice)、マクファイルズコレクションなどがあります。
またスペイサイドにあるベンロマックを所有しており、さらにクラガン蒸留所を開設予定です。
シグナトリーヴィンテージ(SIGNATORY)
1988年に創業しヴィンテージのスコッチをリリースしています。
ヴィンテージシングルモルトが主力製品でボトラーズとしては第二位に位置しており、代表的なシリーズとしてはカスクストレングスコレクションです。
2002年にエドラダワーを買収しています。
ダグラスレイン、ハンターレイン
1948年に創業し、2013年にハンターレインとして分社化しています。
ダグラスレインの代表的なシリーズはビッグピート、スカリーワグがリリースされておりブレンデッドが多い事が特徴です。
ハンターレインの代表的なシリーズはオールドモルトカスク(OMC)がリリースされており、高塾年数のボトルが多い事が特徴です。
またハンターレインはアードナッホ蒸留所を所有しています。
ウイリアムケイデンヘッド(CADENHEAD’S)
1842年創業しスコッチでは現存する最古のボトラーズです。スプリングバンクのJ&Aミッチェル社が経営をしています。
コストパフォーマンスがよく、カスクストレングス、ノンチルフィルタードな製品でありながら、ボトルにカスクNoなども記載されており愛好家の所有感を満たす工夫があります。
代表的なシリーズとしてはオーセンティックコレクション、スモールバッチ、チェアマンズ・ストックがあります。
サマローリ(SAMAROLI)
1968年に創業したイタリア系のボトラーズで、斬新なラベルデザインとボトラーズとして特徴あるウイスキーを作ることを信条としてカリブ海産のラム熟成にこだわっている事が特徴です。
樽だけではなく「ボトルの中でさらに熟成させる」とラベルに記載されており、その品質の高さからリリースすると即売してしまうほどで伝説的なボトラーズと言われておりオークションでは高値で取引されています。
ブティックウイスキー(THAT BOUTIQUE-Y WHISKY)
2012年に創業したボトラーズで、風刺画やジョークがラベルに描かれており斬新なボトラーズでひと目でブティックウイスキーとわかります。
閉鎖された蒸留所や、ジャパニーズウイスキーを対象としたボトリングも行っています。
ダンカンテイラー(DUNCAN TAYLOR)
1938年に創業し、1960年代のウイスキーを多くリリースしています。
代表的なシリーズとしてはピアレスコレクション、レア・レスト・オブ・レアなどがあります。
また日本ではビッグスモークも人気のあるシリーズです。
ベリー・ブラザーズ&ラッド(BBR)
1968年に創業しロイヤルファミリーにワインを提供し続けており、ボトラーズとしては2002年からとなります。
1923年に日本でも人気なカティーサークを販売した事で広く知られており、過去にはグレンロセス蒸留所も所有していました。
ヴィンテージウイスキーを多くリリースしていることが特徴で、代表的なシリーズとしてはクラシックシリーズがあります。
キングスバリー(Kingsbury)
1989年に創業し、1992年に日本のジャパンインポートシステム(田中克彦代表)により法人化されました。
ケイデンヘッド、スプリングバンクのJ&Aミッチェル、ダグラスレインからウイスキーを調達したことで成功しました。
ノンチルフィルタードのシングルモルトが多いことが特徴です。
代表的なシリーズはキングスバリーゴールド、キングスバリーシルバー、ザ・セレクションをリリースしています。
イアンマクロード(IAN MACLEOD)
スカイ島に一族を築いてきたマクロード家が創業したボトラーズです。
代表的なシリーズはチーフタンズ、ダンベーガン、ブレンデッドウイスキーとしてはアイルオブスカイです。
グレンゴイン、タムデュー、ローズバンクを所有しています。
ハートブラザーズ(HART BROTHERS)
1964年にイアン・ハートとドナルド・ハートの兄弟が創業しました。
代表的なシリーズとしてはファイネストコレクションがあり、シングルグレーンウイスキーも販売しています。
ブラックアダー(BLACKADDER)
1995年に創業しカスクストレングス、ノンチルフィルタード、ノンカラーを徹底しているボトラーズです。
創業者のロビン・トゥチェックは親日家としても知られています。
代表的なシリーズとしてはリミテッドエディション、オールドマン・オブ・ホイ(The Old Man of Hoy)、シェリースネーク(Sherry Snake)があります。
コンパスボックス(Compass Box)
2000年に創業したボトラーズで、シングルモルトはリリースしておらずユニークなボトラーズとして知られています。
コンパスボックスはアメリカ人のジョン・グレイザーが設立しました。
アメリカではアメリカンウイスキーがメジャーで、スコッチと聞くと「アメリカのバーボン樽を使ったスモークなウイスキーでしょ」とスコッチはバーボンの真似事と思われていることがありました。
コンパスボックスはスコッチの魅力を最大に引き出すためにブレンドにこだわっていることが特徴でシングルモルトのリリースがありません。
代表的なシリーズはオーククロース、ヘドニズム、スパイスツリーなどがあります。
アデルフィ(adelphi)
1826年に創業しましたが、1880年にウォーカー社に買収されました。
ヴィンテージのブレンデッドウイスキーとヴィンテージシングルモルトを多くリリースしています。
ボトラーズも時代によって変化している
インターネットの普及や技術の向上などにより、蒸留所が自社で原酒を販売する事ができるようになったため、最近のボトラーズは蒸留所を買収し保有しているボトラーズも多くなってきています。
そのため、ボトラーズの意味合いは変わってきており、最近では自社の蒸留所を所有していない事をボトラーズとする事もでてきました。